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地方鉄道の知恵<番外編2>【地方鉄道と自然災害】(起稿班研究第三号・その12)

 地方鉄道のみならず、すべての鉄道は何らかの災害の危険にさらされている。地方鉄道ならば台風による洪水、土砂崩れなどに加えて地域によっては津波、豪雪などのリスクがあり、都市鉄道であってもゲリラ豪雨や人身事故などの都市鉄道ならではの災害が存在する。海外の鉄道では砂による線路支障(砂漠地域)、氷結による線路支障(シベリアなどの厳寒地域)等が起こる。そして、これらの災害は時にその鉄道の存続を脅かすこととなる。災害を「防ぐ」ことは可能である。津波災害が想定される沿岸部を走る鉄道では内陸部への線路の移設や万が一のときのための避難経路の確保が出来る。土砂災害が想定される山間部を走る鉄道では落石止柵や落石検知柵の設置などが考えられる。しかし、これらの「対策」は完全なものではなく、いわゆる想定外の災害には対策しきれない。そしてそのような甚大な被害をもたらす災害が経済基盤の弱小な地方鉄道を襲ったとき、その鉄道会社は存亡の危機にさらされるのである。

 

 今年4月に連続して熊本・阿蘇地方で発生した一連の地震(以下「熊本地震」とする)により阿蘇地域の鉄道は大きなダメージを受け、現在もJR豊肥線南阿蘇鉄道高森線の一部区間では現在も運転を見合わせており、運転再開の見込みが立っていない区間もある。この記事では南阿蘇鉄道に注目しその将来について考えたい。

 

 南阿蘇鉄道高森線は立野駅付近の線路支障をはじめ、第一白川橋梁やトンネルなどに大きな損傷が見られ、全線復旧には最低1年、復旧費用は数十億円にもなるという。特に第一白川橋梁は国内初の鋼製アーチ橋であり、その架設工法も国内初のカンチレバーエレクション(両岸から組み立てて、橋中央で結合する)が採用され、桁下62mという高さも当時日本一と、非常に価値のある鉄道橋である。ここで、南阿蘇鉄道の歴史と今置かれている現状について軽く触れたい。

 

 南阿蘇鉄道は旧・国鉄高森線を引き継いだ第3セクター会社である。旧・高森線は熊本―立野―高森―高千穂―延岡の経路で九州を横断するという壮大な鉄道計画の中で建設された(熊本~立野間は豊肥本線)。立野~高森間の熊本県内の区間1928年に、高千穂~延岡間の宮崎県内の区間1972年に開通し、残すは県境区間の建設のみとなったが、高森トンネルでの異常出水により工事中止、そしてモータリゼーションの影響も受け、後の国鉄再建法により計画凍結された。これにより九州横断鉄道の悲願はついに果たされなかった。

 

 先述の通り、熊本―立野―高森―高千穂―延岡の区間で鉄道が開通しなかったのは高森~高千穂間のみであり、他の区間は鉄道が開通した。しかし、現在の鉄道地図を覗いても高千穂~延岡間の路線は見つからない。この区間国鉄高千穂線として開業し、南阿蘇鉄道と同じく第3セクターに移行され高千穂鉄道高千穂線となったが、この路線は既に廃止されている。この経緯を追いたい。旧・国鉄高千穂線を引き継いだ高千穂鉄道は、トロッコ列車「トロッコ神楽号」を中心に観光地・高千穂の観光名所のひとつとなった。しかし、20059月の台風14号による暴風雨で甚大な被害を受け、全線運転休止。復興へ地元自治体や宮崎県が難色を示したことから復興を断念し、廃止されることとなった。南阿蘇鉄道の「片割れ」は自然災害により廃止に追い込まれたのである。

 

 南阿蘇鉄道としても高千穂鉄道の二の舞とはなりたくないであろう。トロッコ列車「ゆうずけ号」や日本一長い駅名「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」、白水水源にほど近い地域での駅新設など様々な経営努力をしてきた鉄道会社であり、阿蘇の雄大な沿線風景を武器に、九州の一大観光地・阿蘇の観光名所に名を連ねるほどである。南阿蘇鉄道も復旧義援金を集めたり南鉄復旧祈念ビール列車の運行など、懸命な努力が見られる。これらの努力が実り、「祈念列車」が「記念列車」になるような日を心待ちにしたい。

 

執筆:No.7105

校正:編集長(No.7005)

 

これまでの起稿班第三号記事はこちらです↓

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