企画きっぷを考える<第5回>(起稿班研究第六号・その5)
~往復形式のきっぷについて~
今回は、主に観光目的などで使用される、往復形式のトクトク切符について述べたいと思います。
最初に取り上げるのは、「かにカニ日帰りエクスプレス」です。往復のJR特急指定席券に、1回のかに料理が付いた切符となっています。出発地によっていくつかのプランが設定されていますが、京阪神エリアにおいては行き先は山陰・北陸・城崎温泉・天橋立となっていて、それぞれ複数の店舗から料理を選ぶことができます。
価格ですが、大阪~鳥取を例に見ると、「日帰りエクスプレス」利用で14500円(安価ななごみプラン・H28年度)に対し、通常の往復運賃は14580円。
日帰りエクスプレスは料理が付いているということで、相当低価格といえます。
この切符の売りは「日帰り」という手軽さでしょう。価格が比較的低いことも相まって、気軽に旅行に行けるような切符になっています。さらに、自宅から電話で申し込みできること、切符の受け取りが当日でよいことも手軽さを演出しています。
JRはこの企画について、駅や車内でのポスター掲示、パンフレットの配布などの宣伝や多客時における臨時列車「かにカニはまかぜ」の運転など、日本海側への観光需要掘り起こしに力を入れている様子が伺えます。
今回はもう一つ、ユニバーサルスタジオジャパンの入場券とセットになった切符をみてみます。
近年注目が高まるUSJ。入場者数は増え続け、2016年度には1390万人を突破しました。鉄道によるアクセスはJR桜島線(ゆめ咲線)のみとなっていて、USJ利用者は桜島線の収入源となっています。
そんなUSJに目をつけないはずがなく、西日本各地からユニバーサルティまでのJRと3日間の大阪周辺のJRフリーパス、USJ入場券にハリーポッターエリア入場確約券、バタービール引換券がセットになった「ユニバーサル・スタジオ・ジャパンスペシャルきっぷ」が発売されています。
この切符、USJの特典の設定が非常に巧みであると思います。
USJに訪れるときにネックとなるのが待ち時間の問題。特にハリーポッターエリアは人気が高く、これの入場確約券はかなり利用客に喜ばれそうです。
また、バタービールというのもちょっとしたことですが利用者にとっては得した気分になります。流行、ニーズに合わせた付加価値の設定がされています。
ところでこの切符、日数設定が3日となっているのですが、USJ入場券は1日分のみ。
つまりあと2日は周遊券を利用した観光を見込んでいます。ただ、この切符の周遊エリア
が微妙な設定になっています。乗車可能範囲は以下の通りです。
・大阪環状線全線
・桜島線全線
・東海道本線(尼崎~新大阪)
・JR東西線全線
JRはなんばなど大阪の繁華街に向かうのは不便で、これでは2日観光するには物足りなさそうです。
USJが主役の切符であるため、利用者が購入時に周遊範囲をあまり意識しない可能性が高く、価格を下げることを優先したのかもしれません。
今回は「かにカニ日帰りエクスプレス」と「ユニバーサル・スタジオ・ジャパンスペシャルきっぷ」をあげましたが、これ以外にも同様の切符は多く存在します。
切符とセットとなった特典をどれだけ巧く作ることができるか、利用客をいかに得した気分にさせるかが成功のカギとなるでしょう。
次回は空港アクセスの企画きっぷを考察していきます。
執筆:No.7405
校正:No.7212(起稿班班長)
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企画きっぷを考える<第4回>(起稿班研究第六号・その4)
~外国人向けの切符~
今回は、近年急増している外国人観光客向けの切符を見ていきます。
JRでは、訪日観光客向けに「JAPAN RAIL PASS」を販売しています。
基本的には、JRグループの鉄道・バス(高速バスを除く)と宮島フェリー・東京モノレール・一部の第3セクター線が乗り降り自由となります。
これには新幹線(のぞみ、みずほを除く)や特急など、優等列車も含まれています。また、こういった列車の指定席も取り放題となっています。
価格は7日間の場合普通車用29110円、グリーン車用38880円となっています。
ちなみに、入国管理法の定める「短期滞在」に該当する乗客のみへの販売となっていて、日本在住者は購入できません。
このような切符となっていますが、新幹線ひかり号の東京・新大阪間の往復運賃が28280円なので、RAIL PASSの7日間29110円は破格のものです。
鉄道の主なライバルとなっていると考えられる高速バスでは7日間20000円で全国約100路線が乗り放題となる訪日観光客向けチケットを発売するなど、成長を続けています。RAIL PASSには価格を下げて国内間移動の需要を鉄道に引き込もうという狙いがあるのでしょう。
ただ、新幹線や特急に乗車可能なため高速移動が可能であるという大きな利点もあり、もう少し価格をあげてもよいかもしれません。
ところで、この切符には指定席をいくらでもとれるというサービスがありますが、どれだけ指定席をとっても料金がかわらないため、複数列車の座席を予約し、結局乗車しないということが起こり得る状態になっています。これでは、混雑の激しい列車の場合、指定席をとれない乗客がいる中指定席には空席が目立つという状況が生まれてしまいます。指定券の発行回数を制限するということも考えてもよいかもしれません。
JRはこれ以外にも、JAPAN RAIL PASSと同様の条件で乗車範囲を狭めた北海道レールパス・九州レールパスや北陸エリアパスなど、数多くの訪日観光客向けフリーパスを販売しています。いずれも料金設定はかなり割安になっています。
前半は、フリーきっぷを中心に取り上げました。フリーきっぷは観光客向けのものがほとんどですが、工夫によっては様々な効果が得られるでしょう。
次回からは、フリーきっぷ以外のものを見ていきます。
執筆:No.7405
校正:No.7212(起稿班班長)
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2017年第26週活動報告(てっけん。第29回)
こんにちは。活動紹介記事「てっけん。」をお届けします。この「てっけん。」では週ごとに各班の班長に提出してもらっている「活動報告書」に基づいて、各班の活動の様子について簡単にお伝えします。今回お伝えするのは第24週(6月19日~25日)の活動報告です。
【部全体に関して】
鉄研旅行のプランが決定し、参加人数が確定しました。また、班分けの調査も実施しました。
【模型班】
今年の文化祭で展示した一畳レイアウトにさらに木を追加しています。
【工学班】
来年文化祭までの計画を立てました。
【軌道班】
文化祭の大レイアウトのボード上から一部の線路を撤去しました。
【起稿班】
新入部員から原稿が到着しています。校正等ができ次第掲載する予定です。
執筆:起稿班班長(No.7212)
2017年第24週活動報告(てっけん。第28回)
こんにちは。活動紹介記事「てっけん。」をお届けします。この「てっけん。」では週ごとに各班の班長に提出してもらっている「活動報告書」に基づいて、各班の活動の様子について簡単にお伝えします。今回お伝えするのは第24週(6月5日~11日)の活動報告です。執筆の間が空いてしまい、申し訳ありません。
【部全体に関して】
5月に文化祭が無事終了し、役職が交代して新体制となりました。
また、夏休みに実施する鉄研旅行のプランを募集し、締め切りました。次回のミーティングでプランを決定する予定です。
【模型班】
模型のレイアウトの建物などの電飾で使うチップLEDのはんだ付けの講義を実施しました。
【工学班】
活動はありません。
【軌道班】
活動はありません。来週から活動を開始していきます。
【起稿班】
班員から原稿が到着していますが、しばらくは起稿班研究第六号を連載します。
執筆:起稿班班長(No.7212)
企画きっぷを考える<第3回>(起稿班研究第六号・その3)
~スーパーホリデーパス(井原鉄道)~
井原鉄道は、岡山県南部に位置する総社駅と広島県南東部に位置する神辺を結ぶ私鉄です。国鉄が吉備線の延長と位置付けて計画した路線を井原鉄道が引き継いで開業させたため、路線が高規格であることが特徴です。
(↑スーパーホリデーパス。有人駅と列車内で購入できる。)
今回は、この井原鉄道のフリーきっぷである「スーパーホリデーパス」(以下ホリデーパス)を題材に、井原鉄道への観光客の誘致に企画きっぷを活用するという観点から考えていきます。
スーパーホリデーパスは、大人1000円、子供500円で井原線全線(総社・神辺間)が乗り放題となる切符です。総社・神辺間の片道運賃が1000円強なので、無難な運賃設定といえます。さらに、沿線の食堂・お土産屋などの割引特典が付いています。沿線の活性化につながる取り組みです。典型的な「地方鉄道のフリーきっぷ」といったところでしょうか。また、「ホリデーパス」の名前の通り、土日・休日と各種長期休暇のみ使用できます。
井原鉄道は、沿線人口が比較的少ないほか、福山、倉敷といった市街地を通らないことなどから、売り上げが伸び悩んでいます。また、現在も、沿線人口は減少が続いています。そのような中、観光客を沿線外から取り込むことが増収へとつながると思われます。
しかし、沿線には有名な観光地が少なく、集客力は高いとはいえません。そこで、井原鉄道では「ななつ星」や岡山電気軌道の「MOMO」などをデザインしたことなどで知られる水戸岡鋭治氏がデザインした「夢やすらぎ号」を運転するなど、観光客の誘致に取り組んでいます。ホリデーパスもその一部で、さらなる売り上げの増加が望まれます。
井原鉄道に乗客が流入しない理由は、沿線の観光施設の乏しさのほかに、そのアクセスの悪さにあると思われます。前述のとおり、井原鉄道のターミナルは総社・神辺といった郊外の駅であり、周辺も住宅が中心です。沿線外から乗客を流入させるとすれば、人口が多いうえ、商業施設、観光施設の多い岡山・倉敷・福山といった都市からとなりますが、これらから井原線沿線に向かおうと思うと乗り継ぎが必要となります。(例外として1日に数往復、福山直通列車が設定されています。)
井原線列車の倉敷直通運転への要望も沿線で上がってはいますが、実現へのハードルは高いでしょう。こういった短所を埋められる施策が必要となってきます。
そこで、ホリデーパスを活用してもよいかもしれません。
やはり、有名観光施設のない井原鉄道は、知名度を上げていく必要があります。
便利なホリデーパスを宣伝することで井原鉄道を訪れる動機となりえます。
さらに、ホリデーパスの付加価値として、「岡山・総社間の運賃が割り引かれる」といったものを設定すると、さらに安価で訪問できるという印象が強まるでしょう。
ここまで、観光客の誘致について、企画きっぷの活用という面から考えてきました。井原鉄道の場合、岡山から総社へ、福山から神辺へという移動が必要なのがネックのひとつです。そのため、JRとの連携が求められます。さきほど「ホリデーパスの付加価値として『岡山・総社間の運賃が割り引かれる』」ということをあげましたが、それ以外にもすでにJR西日本の岡山県の路線が乗り放題となる「吉備の国くまなくおでかけパス」では井原鉄道全線がフリー範囲に含まれています。こういった連携が広がっていくことが望まれます。
次回は、外国人観光客向けのきっぷについて考察していきます。
執筆:No.7405
校正:No.7212(起稿班班長)
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企画きっぷを考える<第2回>(起稿班研究第六号・その2)
~関西1デイパス(JR西日本)他~
今回は、関西に限定した乗り放題切符である関西1デイパスとそれに対抗する私鉄各社の観光向けフリーきっぷを見ていきます。
関西1デイパスは、大阪近郊区間の普通列車(特急料金の必要がない列車)が乗り降り自由となるほか、関西周遊に有効ないくつかの特典が付いた切符です。春夏秋冬の4期に発売期間が分かれていて、特典はその時々によって異なります。2016年から2017年にかけての冬の場合は、大阪水上バス「アクアライナー」、江若交通バスが乗り降り自由になるほか、レンタル駅リン君(JR西日本が行う自転車レンタルサービス)の利用、さらに奈良・高野山・琵琶湖のいずれかの観光に使用可能なチケット(具体的には、近鉄・南海・京阪やバスに乗車可能)となっています。また、料金はおとな3600円、こども1800円となっています。これだけたくさんの特典が付き、3600円というのは、かなりお得感があります。特典についてですが、基本的には南海グループ・京阪グループ・近鉄グループのいずれかのチケット+大阪水上バス・近江鉄道・江若交通バスなどという設定になっています。
こういった特典などからわかるように、ターゲットとなる客層はファミリーや友人同士などで、日帰りの観光を目的としています。ただ「乗り放題」というだけでなく、付加価値が多い切符で、旅行には便利でしょう。また、行きたいところに合わせてコースを選べるというのも利用しやすい一因です。
さて、ここでJRと対比することの多い競合私鉄についてみていきます。関西の私鉄各社はこれまで、JRを除く関西のほぼすべての私鉄路線で利用できる磁気カード、「スルッとKANSAI」を販売していました。
(↑スルッとKANSAI)
そして、それに派生した、3日5200円、2日4000円でスルッとKANSAIの乗車可能範囲内が乗り降り自由となるきっぷ「スルッとKANSAI2day・3dayチケット」を販売していました。
これは近畿2府4県を除く地域で販売されており、関西外からの旅行客にとって大変便利なものでした。しかし、時代が進み、ICカードの普及が進んだため、磁気カードであったスルッとKANSAIは発売中止、それに伴い スルッとKANSAI2day・3dayチケットも発売中止となってしまいました。
それに伴い、いくつかの鉄道会社は新しいフリーきっぷを発売するなどしていますが、乗車可能範囲が圧倒的に狭く、不便になった感は否めません。
しかし、私鉄各社が目的地別に様々なフリーきっぷを発売していて、乗車可能範囲こそ狭くても、乗客それぞれのニーズにあった乗車券が存在します。例えば阪急電車では、阪急阪神1dayパスや京都レールきっぷ、奈良・斑鳩1dayチケット、海遊館の入場券とセットになったOSAKA海遊きっぷなど、他社と協力しつつ多くの乗車券を発売しています。山陽電車においては、利用可能区間によって6種類もの「1dayチケット」を発売しています。
このように、JR、私鉄ともに利用者のニーズに合った特典や利用区間など、様々な工夫を凝らしています。
次回は、井原鉄道のスーパーホリデーパスを考察していきます。
執筆:No.7405
校正:No.7212(起稿班班長)
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企画きっぷを考える<第1回>(起稿班研究第六号・その1)
切符には日常的に使う定期券や入場券のほかにも乗り放題きっぷや運賃が割り引かれるお得な切符など、無数の企画切符があります。今回は、この企画切符についていくつかの例を挙げながら、8回にわたって様々な視点で考察します。
前半4回は様々なタイプのフリー切符をみていきます。
~青春18きっぷ(JR各社)~
(↑青春18きっぷ)
青春18きっぷ(以下18きっぷ)は、JR全線の普通列車(特急料金の必要がない列車)、BRT、JRが運営する宮島フェリーが乗り放題となるきっぷです。11850円で5日分がセットになっていて、この5日分は5人で1日使ったり、1人で5日使ったりすることができます。利用するときには最初の入場時に、写真のように日付がいれられ、その後は駅員に見せるだけで入退場が可能です。1日あたり2370円という価格から、鉄道ファンを中心に重宝されています。
使用可能期間が定められており、春期(3月1日~4月10日)・夏期(7月20日~9月10日)・冬季(12月10日~1月10日)の3期となっています。それぞれ、長期休暇シーズンにあたり、通勤・通学利用が減少し、輸送力が余剰となるためそこに乗客を誘導する狙いがあると思われます。この考え方は時差回数券・昼間特割きっぷなどに共通しています。
さて、この切符について特筆すべきことは新幹線の並行在来線の処遇でしょう。
北海道新幹線開業に際しては、在来線で北海道と本州を行き来できなくなったため、18きっぷをもっていれば北海道新幹線に2300円で乗車でき、かつ道南いさりび鉄道木古内・五稜郭間に片道乗車できる「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」が発売されています。それに対し、北陸新幹線開業後、第三セクター化された旧北陸本線では基本的には18きっぷの利用が不可能となっています。(例外として、七尾線、城端線など、JR線のみでは他線区まで移動できない路線に乗車する際は、第三セクター線の指定された線区に乗車できます。)これにより、18きっぷで北陸を縦断することが不可能となっています。今後新しい新幹線路線が開業していくにつれ、18きっぷで乗車できなくなる並行在来線は増加すると思われます。
JRとしては、新幹線に乗客を誘導する、などの観点から18きっぷで第三セクター区間に乗車可能にするメリットはほとんどありません。しかし、第3セクター線、とりわけ北陸各社のような沿線人口の比較的少ない線区にとっては、少しでも乗客が増加することが必要です。18きっぷの年間販売枚数は約70万枚程度といわれており、第三セクター線にもある程度の旅行客の流入が見込めます。
そこで、18きっぷ利用者向けに通常よりも運賃を割り引いて第三セクター区間に乗車できるきっぷを販売する、ということが考えられます。このようなきっぷを発売すると、これは、沿線にとっても町の活性化につながり、悪いことではないでしょう。
さらに、並行在来線に限らなくとも18きっぷの活用は可能でしょう。実際に、三陸鉄道では、18きっぷ利用者向けのフリーきっぷ、智頭急行では18きっぷシーズンのみに販売されるフリーきっぷが発売されています。地方のローカル鉄道においては、少なからずいる18きっぷ利用者に向けたサービス・戦略というのも、有効かもしれません。
次回は、18きっぷとは客層の異なる、関西1デイパスを考察していきます。
執筆:No.7405
校正:No.7005(編集長(当時))