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地方鉄道の知恵<番外編>【津軽鉄道とDMV】(起稿班研究第三号・その9)

この記事は地方鉄道の知恵・第4回の関連記事です。まだお読みでない方はあわせてお読みください↓

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 津軽鉄道ではかねてから、北海道新幹線が開業した暁には終点の津軽中里駅から奥津軽いまべつ駅までDMV津軽鉄道と直通させようという計画があった。DMVとはDual Mode Vehicleの略称で、列車の軌道と自動車の道路のどちらでも走行可能な車両のことである。鉄道線から離れた繁華街や病院などに直通することができるため利便性が上昇することが見込まれ、また鉄道よりも安く運行できることから全国各地の地方鉄道への導入が期待された。このDMVの開発を担っていたのはJR北海道であった。長年開発が続けられていたが、脱線事故や車両火災などの不祥事が相次いだため、また限りある開発資金を北海道新幹線に充当するため、2014(平成26)年にDMV開発を中断、翌年2015(平成27)年に実用化を断念、開発を事業を終了することとなった(同様の理由でキハ285型新型車両の開発も断念され、試作車は廃車されることとなった)

 

 話を津軽鉄道に戻す。もちろん津軽鉄道ではDMVが導入されていない。DMVの開発が終わっているわけではないが、津軽鉄道では信号設備等の調整の手間が掛かることを理由に断念している。そしてDMVがバスの形態で運行する計画であった津軽中里駅奥津軽いまべつ駅間は弘南バスによってバス路線が運行されている。ところで果たして、津軽鉄道DMV計画は見込みのあるものだったか。実現が不可能となった今、展望ある計画をストップさせたことでJR北海道を追及するのはなしにして、開発が完了し導入できるような態勢が整ったらどう地方交通が変わるか。用途として一つに空港、新幹線駅へのアクセス、もう一つに地域交通の鉄道からの置換の二つがある。それぞれについて考えてみたい。

 

 JR北海道がDMVを導入しようとしていたのは石勝線夕張支線や札沼線末端区間、そして石北本線北見駅~西女満別駅~女満別空港などである。前の2つは乗客が大変少ない閑散区間であり、特に札沼線末端区間は通学が出来ない時間帯に1往復しか列車がしか設定されていない。この2つはコスト削減が主な目当てと言えるが、最後の女満別空港アクセスは前者2つとは趣が少し異なる。既存路線のDMV化ではなく、新設路線などである(アクセス路線という観点では津軽鉄道の例と似ている)女満別空港は北見地方の玄関口として機能しているが、そこへの公共交通機関はバスしかない。空港から数kmの位置にJR西女満別駅があるが空港への道は整備されておらず、また西女満別駅にタクシーが常駐している訳ではない。それどころか西女満別駅はいわゆる「秘境駅」に名を並べるほどの閑散とした駅である。今のままではできそうもない。そこでDMVに白羽の矢が立った。かく言うDMVはバスに対抗しうる公共交通になれたのか。

 

 現在北海道北見バスが北見バスターミナル〜女満別空港間を約42分でおり、運賃は1,000円となっている。石北本線では北見駅〜西女満別駅間を普通列車が約45分で結んでおり、運賃は740円。特急列車は西女満別駅から1駅網走側の北見駅女満別駅間を約35分で結んでいるから、所要時間でバスに対抗しようとすると特急並みのスピードで走らないといけないことになり、これは非現実的であろう。運賃面でもそこまで対抗できるとは思えない。たかが数百円である。ともすれば、いったいどのように対抗したらいいのか。JR北海道の既存のネットワークと結びつけることが最善手だろう。女満別空港は北見地方の玄関口だけでなく知床、網走、オホーツク方面の観光の拠点でもある。北見行きだけでなく網走行きも設定すべきかもしれない(地理的にも女満別は北見より網走に近い)。こうなると北見〜西女満別女満別空港、網走〜西女満別女満別空港2系統ができる。通年運行するのはこの2系統で良いだろう。観光シーズンに網走行きを知床斜里まで延伸してもよさそうだ。しかし、ここでダイヤはどのようなものにすべきなのか、という課題がある。現在の石北本線のダイヤをそのままにして空港アクセスDMVを快速運転させ理想である。しかし既存の交換設備では多くの列車本数を確保するのは難しい。本数面でのデメリットをなくすのなら北海道北見バスの14往復を下回らないようにはしたいが非現実的であろう。少なくとも現在の設備とシステムではバスに打ち勝つことはできない。もし石北本線のこの区間の列車を全てDMVにしたら併結・切り離しを駆使して効率よく運用でき、まっとうに競争できるかもしれないが。

 

 津軽鉄道ではどうだろうか。こちらでは津軽中里駅から奧津軽いまべつ駅を結ぶDMVが構想されていたが、よく考えると直通させるメリットがあまり見えないのに気づく。確かに津軽鉄道の沿線からは新幹線が使いづらい。しかし直通させても津軽鉄道沿線から乗り換えなしで行ける、ということ以外にメリットはないだろう。冬季はDMV路上走行区間での積雪による遅れが津軽鉄道線に波及するし、路上で事故にでも遭おうものならダイヤに大きく影響する。鉄道の大きな利点でありアドバンテージである定時性が脅かされるのだ。

 

 以上より、DMVはアクセスとして用いるのは困難だろう。それでは地域輸送の置き換えとしてのDMVは無駄であるか。先程、導入計画のあった路線として挙げたうちの石勝線夕張支線、札沼線末端区間がこれに当てはまる。これらの路線は非常に輸送密度が低く廃線の危機に晒されている。DMVの方が通常の鉄道よりコストパフォーマンスが良いようだ(実際にどれだけのコスト削減が見込めるのか、もしくは実はコスト削減ができず、むしろ余計にかさむだけなのかの議論はここでは省く)。このDMVのシステムの導入でコストカット、更には病院などへ直接アクセスする事も可能になる。このような病院などは鉄道から多く離れたものは多くないので道路事情の影響もそこまで及ばないだろう。しかしこちらでも疑問が一つ生じる。本当にDMVが最善手なのか。大変輸送密度が低い路線であるから廃止、バス転換した方が管理費は安くつく。もしどうしてもJR北海道の路線として、鉄道路線として存続させるならば大船渡線気仙沼線の一部で採用されているBRT(bus rapid transit、バス高速輸送システム)にするという選択肢もある。他の路線と直通させることもあまり考えられないので、DMVであるべき理由が見つからないのだ。

 

 結論として、DMVは大変中途半端な交通機関と言えるであろう。もちろん完璧な交通機関など存在しない。鉄道であると、大量輸送は効率良く行うことができるが細かな輸送には不得手であるし、一方でバスは鉄道ほど多くの輸送を担うのは困難であるが小規模な輸送に対応するのには長けている。乗客減が続く地方鉄道では、鉄道では輸送力が余剰であるがバスでは不十分、という状況になっているところがある。BRTDMVなどはその微妙な需要に対応するためのものだ。現在、BRT東日本大震災の被災地で採用され、一定の成功は見せている。DMVについても、筆者はその意義に懐疑的だが導入してみなければ、実態はわからないだろう。成功するかもしれない。もし成功したならばそれがモデルケースとなり、全国の地方鉄道に広がっていっただろう。実際に岳南鉄道などはDMV採用の意思を示していた。このように可能性があっただけにDMVの開発断念は残念である。

 

執筆:No.7105

校正:編集長(No.7005)

 

第3回までの起稿班第三号記事はこちらです↓

 

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