地方鉄道の知恵<第5回・後編>(起稿班研究第三号・その11)
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ここからは、「おれんじ食堂」以外のレストラン列車(列車内で食事が出来る列車)について見ていきたい。
4.明知鉄道とお弁当
明知鉄道ではグルメ列車を運行している。このグルメ列車は「おばあちゃんのお花見弁当」「おばあちゃんの山菜弁当」「寒天列車」「きのこ列車」「じねんじょ列車」と年間を通してその時の旬の地元の食材を生かした料理を提供しており、景色と共に楽しめる。なかでも「きのこ列車」は人気だ という。明知鉄道では他にも「ちゃりんこ列車」「生ビール列車」「蛍列車」などのユニークなイベント列車が季節に応じて運行されている。
明知鉄道は1985年に旧・明知線を第三セクター化された路線で、恵那から明知を経由して掛川まで結ぶ遠美線の一部として開業した。明知までは開通したもののそこから掛川までは開通することなく、いわゆる「赤字83線」の一つに名を連ねることとなり、第三セクター化に至った。ここでも沿線の食材を用いて明知鉄道、そしてその沿線を宣伝する。
5.日本一若い三セクの切り札
北海道新幹線の並行在来線として第三セクターに転換された、道南いさりび鉄道線(旧・江差線)。 ここでも、地元の食事を武器にイベント列車の運行を開始した。日本旅行と提携し、日本旅行のツアー商品として観光列車「ながまれ海峡号」への乗車を売り出して いる。「道南の魅力発信」をコンセプトに運行され、海鮮丼に似せたスイーツやシェフが腕をふるったイタリアン風料理やバーベキューが提供される(余談ではあるが、さすがにバーベキューは車内では焼かず駅で調理したものを積み込むようだ)。
この列車にはJR北海道から譲渡されたキハ40型気動車を改造した専用車両「ながまれ号」(キハ40-1793,1799)が運用されるが、意外なことにこの「ながまれ号」には日本旅行のツアーに参加せずとも乗車することが出来る。「ながまれ号」は通常の定期列車の運用にも入るのだ。道南いさりび鉄道は道南の閑散区間を通るため、採算が取れない路線である。ここ10年で利用客は16%ほど減り、23億円の赤字になるという。こんな道南いさりび鉄道の「救世主」として、少しでも多くの利用客を集めよう、という道南いさりび鉄道の強い意志が感じられる。
6.おわりに
現在、おれんじ食堂の成功例を基に、明知鉄道、道南いさりび鉄道などのいくつかの鉄道会社でも、レストラン列車を含め、食と鉄道を結びつけるような列車が運行されている。過疎化が進み定期利用客だけでの経営維持が不可能な鉄道は全国に多くあり、こういった「奇抜な」列車を走らせるのは大抵こういった鉄道会社だ。各々の鉄道会社が運行する各々の列車にはそれぞれの、それ固有の魅力がある。たとえ我々が何も考えずにこのようなイベント列車に乗りに行っ たとしても地元のモノ、地元の人に歓迎されるに違いない。受動的な態度で向かっていっても振り向かせてくれるような魅力を山積みにして待ってくれるのだ。 その歓迎を心から感謝し、そしてその地域を楽しみ、味わい、学び、理解し、そしてその地域に貢献するのが観光客の使命であり、旅の楽しみなのではないだろうか。
執筆:No.7105
校正:編集長(No.7005)
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