地方鉄道の知恵<第4回・後編>(起稿班研究第三号・その8)
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5.イベント列車の「大小」の折り合い
前半では「ストーブ列車」の必ずしも明るくはない未来について述べたが、この後半では「ストーブ列車」以外の「風鈴列車」「鈴虫列車」についての考察を行う。
津軽鉄道は「風鈴列車」「ストーブ列車」以外にも様々なイベント列車を走らせている。これらの列車は大掛かりなものではない。例えば「風鈴列車」は車内に風鈴を取りつけただけの列車であり、「鈴虫列車」は車内に鈴虫の入ったかごを積んだだけである。これでは観光客が集まりにくいかもしれない。しかし、これらの列車には観光客を集めること以外にも重要な役割が存在するのだ。それは、地元利用客へのサービスである。一般的にイベント列車というものは観光客の誘致に力を入れられており、地元民の利用は軽んじられていたと言える。これでは地元客の利用が遠のいて「観光鉄道」に成り下がってしまうだろう。地元利用客向けのイベント列車が多いのは津軽鉄道ならではだろうし、その特長のひとつであろう。
「ストーブ列車」を除いたほとんどのイベント列車はその期間全ての列車において導入される。例えば、「風鈴列車」が運行される7月1日より8月31日までは始発から終発まで全ての列車が「風鈴列車」となる。それに加え年に多くの種類のイベント列車が用意されている。津軽鉄道ほど多くの種類のイベント列車を走らせている鉄道会社はないだろう。多くのイベント列車が走っていると、人々の印象に残るであろうし、継続すれば季節の風物詩になるかもしれない。もちろん高校生の通学で混み合うラッシュ時間帯でも運用することが可能なことから分かるように、乗客の乗り降りが邪魔されるようなことはない。そんな問題になるような設備、装飾はそもそもしていないからである。例えば「風鈴列車」だと風鈴を飾っているだけである。それはつまり、資金をそれほど注ぎ込んでいないということである。あまり資金をかけていない分全列車に装飾することができるし、多くの種類のイベント列車を走らせられる。これには欠点もある。資金をかけておらず、ある程度の装飾しかしていないため、観光客には今一度話題性に欠けるのである。これはどうしようもない。話題性は広告費を含めたかけた金額に比例するものであるから。
イベント列車を独創的で豪華なものにするのならば、それには大量の資金が費やされる。しかし資金の消費を抑えると、当然イベント列車は簡素なものとなるだろう。多くの地方鉄道にはそれほどたくさんの資金がある訳ではない。その資金を「大きな」イベント列車にかけるか、「多くの」イベント列車にかけるか。いったいどちらが正解なのだろうか。各々の鉄道会社で異なるだろう。津軽鉄道ではその両方を実施することで互いのデメリットを打ち消そうとしている。これが一番安定した、つまりリスクの少ないやり方ではないだろうか。
6.参考文献
・堀内重人『廃線の危機からよみがえった鉄道』中央書院、2010年11月
・タツミムック『徹底解説最新ローカル線ビジネス――ローカル線の今にせまる!』辰巳出版、2013年9月
・津軽鉄道公式HP http://tsutetsu.com/
執筆:No.7105
校正:編集長(No.7005)
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