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地方鉄道経営再建の処方箋<第5回>(起稿班研究第七号・その5)

 前回で、JRとの乗り入れによる旅客数増加は多くの地方鉄道にとって望みが薄いことがわかりました。そこで今回は、観光列車運行による旅客数増加という観点からの経営再建について述べたいと思います。観光列車はヒットさえすれば多少利便性が悪くても観光客が乗りにくることが期待されますし、あわよくば旅行会社がツアー客向けのプランに組み込む(JRの例だが、JR九州の「SL人吉」など好例である)ことによって大幅増収が見込める、いわば起死回生の策といえましょう。今回は「おれんじ食堂」なる観光列車の導入によって一時的に赤字の圧縮に成功した肥薩おれんじ鉄道について見ていきましょう。

 肥薩おれんじ鉄道は、九州新幹線開業によって大幅な減益が見込まれる鹿児島本線の八代―川内間を引き継ぐ形で2002年に設立されました。しかし南九州自動車道の開通や沿線人口の減少なども相まって2004年の利用者数が年間188万人であったのに対し2010年は年間151万人まで落ち込んでしまいました。ですが2009年の社長交代後、ゆるキャラのラッピングやゲーム会社との提携など多角的な経営を目指し、わずかながら業績が持ち直し、国の助成などもあったものの2011年には1億5700万円の純利益をたたき出し、黒字化に成功。また2013年、観光列車「おれんじ食堂」の運転を開始しました。「おれんじ食堂」とは沿線の特産品で作られた食事やデザートなどを味わいながら九州西海岸の美しい景色をゆったり眺める列車(「おれんじ食堂」公式HPの内容を要約)のことで、料金もそれに相応して高く、一番高い2便、3便は2万円を超すという豪華観光列車です。これが功を奏したのか、2013年度には輸送人員が6年ぶりに増加に転じ、売上高も過去最高となる14億6600万円に達しました。

 だがその後、国の助成金の減額や「おれんじ食堂」用車両を製造するときにかかった車両改造費や人件費がかさんだことにより再び経営は悪化、その後も2015年8月に台風に見舞われ土砂崩れや架線の切断等甚大な被害を受けたり、ななつ星in九州の乗り入れが開始された1週間後に熊本地震に見舞われ1週間半の運休を余儀なくされる等再び苦境に立たされていますが、「おれんじ食堂」がJTBやHISをはじめとする多くの旅行代理店のツアー行程に組み込まれたり、ななつ星in九州の乗り入れを開始したりなど未来は明るく、今後の成長に期待したいところです。

 このように、贅をつくした豪華観光列車を運行して、その収益による増収を狙うスタンスは、地方鉄道のみならず豪華寝台列車「瑞風」や「四季島」の運行など近年はJR各社も取り入れていて、近年の鉄道会社の一つのスタンダードになりつつあります。ただし列車の改造費がかさみ経営を(一時的にでも)圧迫するという側面があり、いかにあまりお金をかけず高級なムードを出すかというのがカギになりそうです。

 

執筆:No.7409

校正:No.7212(起稿班班長)

 

起稿班研究第七号の過去記事はこちら↓

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