灘校鉄道研究部公式ブログ

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地方鉄道の知恵<第1回・後編>(起稿班研究第三号・その2)

 前回に続き、井原鉄道の施策について見ていきます。

 

 前回は「地元との密着」について見ましたが、今回は少し別の視点から考えたいと思います。前回紹介した「長~~~い硬券」シリーズを例に考えていきましょう。

 以下の写真において、上から順に井原鉄道の「長~~~い硬券」の総社⇔神辺の片道乗車券、灘校鉄研50周年記念列車の記念硬券三陸鉄道盛駅(大船渡市)の硬券入場券です。 

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 井原鉄道の利用客は近年少しずつ増えていますが、お得な切符を販売していることが裏目に出たのか、収益は減っています。この状況を打破するために、井原鉄道は新しいニーズを作り出そうとしました。以下は前回の「長~~~い硬券」シリーズを紹介したときの引用元のPDFの「その他」の欄の記述です。

 

 通信販売もご利用いただけます。

 お求めの硬券代金に送料を添えて、現金書留または郵便為替で下記まで送付してください。

 (送料・申込書等の詳細は当社HPをご覧ください)

 

 これを見て気づかれた方も多いでしょう。井原鉄道は「コレクター」を新たなターゲットとして狙いを定めました。この大変珍しい切符は一定数いる「切符コレクター」の目につき、当然それを手に入れるために購入しようとします。

 しかし、井原鉄道の営業区間は不幸にも都市部から離れています。岡山や福山に住む人はそこまで苦労せずに買えますが、大阪、東京、名古屋などの大都市圏からはアクセスは良いとは言えません。この切符自体は総社~神辺の片道切符の場合で1,100円と、そこまで高額なものではありませんが、ここまでのアクセスにお金が掛かる、と言う訳です。井原鉄道は総社~神辺の片道切符(大人1,100円、小人半額)と普通手回り品切符(280円)を2,000枚ずつ売り出していますが、これまでのイベント切符のように地元でのみの発売なら、とても売り切ることのできる枚数ではないでしょう。そこで通信販売も使えるようにし、遠く離れたところに住む人にも買ってもらえるようにしたのです。

 少子高齢化、大都市への人口移動など、地方鉄道を取り巻く環境は年々厳しくなっています。地元とより密着しようとしたり、「マニア」の顧客を集めようとしたりすることで生き残りを図るのは井原鉄道だけではありません。「列車を走らせたら勝手に客が乗ってくれて儲かる」なんて時代はもう過ぎました。全国各地の地方鉄道の、これからの努力に目を向けてはいかがでしょうか。

 

執筆者:No.7105

校正:副編集長(No.7005)